ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします。
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午後2時をまわり客席はまだ明るい。波の音がした。空耳か。いや、聞こえる。だんだんと大きくなる。そしてだんだんと暗くなった。カルテットにつづいてシャンティさんのシルエットが影絵のようにステージ中央に。公演のチラシのイメージとは違って、黒髪を束ね、黒のノースリーブに小さな星模様がキラキラしたチュールのスカートをあわせていた。
前半7曲、後半7曲、アンコール1曲。なんと15曲。それでも「もうワンセットやりたいくらい」と、コンサートの終わりに言ってくれたのだ。私も、もっと聴きたかった。始まりの曲はしっとりとしたケルト民謡《Exile》。短調で始まったのが意外だ。ポップなスタートを想像していた。間奏に合わせて揺らす腕の動きが美しくて、バレエを習っていたのかなと思った。
4曲目《Exactly like you》=「あなたに会えるのを待っていたのよ」。それはご自身のストーリーのような歌詞で、幸福感に説得力があった。
5曲目《Va Tranquille~Debi Llorar》は、午前の光の中、キッチンから届く子守歌のようだった。幸せな陽だまりが思い浮かぶ。照明もそんなイメージが膨らむ素敵な差し方だった。※このずっと後に、本当の子守歌《Lullabye(Goodnight,My Angel)》が歌われることになる。
9曲目の《Over the Rainbow》は、前奏ではすぐにその曲と分からなくて、知っているメロディーに未知のアレンジがほどよく混ざっていた。曲が終わったあとに客席が不思議な静寂をつくった。我慢して静かにしている感じではなくて、とても自然な静けさのなか、無声のブラボーが舞っているようだった。アーティストにも届いていたらいいなと思った。
オーガニック・ヴォイスとは巧い喩えだなと思う。土に根をはり軽やかにのびていく、自然の恵みのような声。歌い終わった笑顔がヒマワリみたいで、「Thank you」(「サンキュー」ではなく、「さんきゅっ♪」という感じ)と、小さくマイクに入れる様子が大人可愛い。
休憩のあとはどんな衣装かな、と思っていたら、全く同じ装いで戻ってきた。そうか、そうだよな。そういうことじゃないよな。歌を召しませ。プログラムが進むにつれ、なんとなく日々を振り返って、ふとした気づきがあって、今日より明日が良くなりそう、そんな気持ちになった。「ほぐれた。」と言うとぴったりだ。
後半最後は《Love Matters》。まさに、オープニングにイメージしたポップな楽曲。ここにセットされていたか!随所で私の期待を気持ちよく裏切り、気持ちよく叶えてくれた。
ボランティアライター 深谷香
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今回は全くの予習なしにやってきたなぎさホール。会場にはアラフォー世代と思しき女性が目立つが、子どもの姿もちらほら、白髪の世代の姿も多く見られる。ますます、一体どんな音楽なのか想像がつかない。
開演のベルが鳴り、しばらくするとかすかに何か聞こえてくる。「波の音?」。照明が暗い青色になり、波の音が大きくなって、弦楽四重奏を圧倒するような力強い歌声が響き出した。歌詞の意味は分からないが、薄暮の蒼い海に果てしなく広がっていくように、異界に聴く者を誘って行く。弦楽器、とくにヴァイオリンの音の伸びと同じように伸び、広がっていく声。一曲目から圧倒された。中近東で響く祈りの声のようでもある。オフラ・ハザを思い起こさせた。シャンティ、この歌手は一体どんな人なのだろう?
一曲目Exile、そして 二曲目Home At Last、を歌い終えた彼女が語るにはなんと、「逗子生まれの葉山育ち。」東京に疲れて五年前に故郷に戻ったという。逗子の海、山、街が彼女の価値観と、声をはぐくんでくれた、と語る。
最愛の人に巡り合い、初めての赤ちゃんを授かったところという彼女は今、最も充実している時なのだろう。ジャズスタンダードに続いて、欧州を旅した時に作ったというフランス語の曲には、まるで名画を見ているような気持ちにさせられた。
ジャズで有名になったようだが、やはりこの人の声や歌が最も生きるのは息の長い抒情性に富んだ曲だと感じた。クラシックヴァイオリンの持ち味との相性が抜群に良い気がした。チェロのバンドマスター、西谷氏が相方清水氏と共に編曲したという四重奏が歌い手を最大限生かすように響く。
弦楽四重奏だけの演奏が合間に入るのも、又良かった。たくさんのオリジナル曲をまじえて、のびやかな、若い演奏家たちのこれからが大いに楽しみになるコンサートだった。
ボランティアライター 不破理江
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SHANTI(シャンティ)さんは、あのゴダイゴのドラマー、トミー・スナイダー氏を父に持つ、シンガーソングライター。2010年にメジャー・デビューし、コロナで延期となったコンサートを、生まれ故郷である逗子の地で開いた。弦楽四重奏をバックにしたアコースティックライブである。
暗闇のステージに流れる波の音から、静かにコンサートがスタートした。黒の袖なしドレス、シースルーのフレアスカートというシックな装いでシャンティさんが登場。一曲目が象徴的であった。ケルト音楽の≪Exile≫。ケルト特有のもの悲しさを湛えたスローな曲を、2本のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロがさざ波のように重なり合いながら奏でる。そして、シャンティさんの心震わすビブラート。包み込むようなのびやかで優しい英語の歌声に、いきなり涙がにじんだ。彼女の全身から、溢れ出る母性を感じた。見守られる安心感と、癒しで泣けてきたのだと思う。悲しい曲なのに、歌い終わる時、彼女は目をつぶって満面の笑みを湛えてみせた。それはまさしく菩薩の笑顔であった。
ジャズ、オールディーズ、ミュージカルのスタンダード、ビリー・ジョエルのヒット曲等の合間に、オリジナル曲や、弦楽器だけの演奏をはさんだ、バラエティに富んだ曲構成。英語、フランス語、そして日本語…胸を締め付けられる歌声と、癒しの笑顔と、心を穏やかに鎮める弦楽の調べが繰り広げられた。
例えば、ジャズの名曲《Fly me to the Moon》も、彼女が歌うと、ジャジーというよりメロー。優しい弦楽四重奏にのせて、しんとした夜空より、明るい陽だまりを感じた。例えば、フランス語のオリジナル曲《Va Tranquille~Debi Llorar》は、ささやくような歌声で、優雅に草原を移動している…波間を漂っている、そんな自然の中にいる気分にさせてくれる。例えば、ビリー・ジョエルが自分の子どもに向けて作った《Lullabye(Good night,My Angel)》やオリジナル曲《Home At Last》は、まさに家族の風景を、母性を持って歌い上げた(《Lullabye(Good night,My Angel)》は小さな我が子に子守歌として歌ってあげているそう)。
穏やかな明るさ、大自然、そして包み込むやさしさを感じさせる彼女の歌声は、唯一無二の“オーガニック・ヴォイス”と称される。私にとっては、心も体も疲弊しているときに聴くと、トゲトゲをとってくれる“ヒーリング・ヴォイス”でもあった。
ボランティアライター 三浦俊哉
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