イベントレポート 「日野皓正 “トランペット四重奏” with 原朋直、中村恵介、佐瀬悠輔」2025年2月1日(土)開催

ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします

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 『Over The Rainbow』(トランペット:日野皓正/ピアノ:高橋佑成)を聴きながら、日野皓正氏はやはり世界的トランペッターなのだと改めて思った。ツヤと輝き、音の厚みや安定感、力強さは群を抜いている。リズムやメロディのはずし方とアレンジ、どれをとっても超一流。ジャズクラブにいる気分。お酒を飲みながら、スマートで背筋がピンと伸びた氏の演奏で心地好く酔いたい気持ちになった。
 前半は前衛的な感じのする曲が多く並んだ。様々なリズムとメロディが渾然一体(こんぜんいったい)となっている。4人のトランペッターたち(日野皓正、原朋直、中村恵介、佐瀬悠輔)が、別々の曲を吹いているように聴こえるのに、なぜかピタリと合っている。これぞセッションの妙味。『Free Mandela』は南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラ氏をテーマにした曲。闇から這い上がってくる雰囲気がよく出ていて、彼のストーリーを見事に表現している。翳り(かげり)をおびたジャズだった。
 後半ではスタンダードなジャズも披露。『Darn That Dream』(トランペット:佐瀬悠輔/ピアノ:高橋佑成)はスローで実にロマンチック。ジャズピアノがうっとりするほど美しい色香を漂わせ、甘い気分に浸らせてくれた。『Nearness of You』(トランペット:中村恵介/ピアノ:高橋佑成)は、トランペットとピアノってこんなに合うんだと感じた一曲。ピアノが甘美な光を放ち、トランペットの音と響き合う。音の強弱の中で、切なくなったり高揚したり・・・至福の時間だった。
 アンコールを含めて全14曲。満員の観客も大いに堪能したにちがいない。
 1980年代、世界屈指の経済大国になった日本は、他国の芸術や象徴を高額な値段で次々と手に入れていった。海外からの冷ややかな視線に身を縮めていた中、本場ニューヨークで活躍する日野氏は私たちの誇りだった。お金だけじゃない。日本人だって世界に通用する文化や芸術を創り表現することができるのだと証明してくれた。氏の本日の公演とこれまでの歩みに心からの感謝と喝采を送りたい。

ボランティアライター 青栁有美

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 オープニング曲『MIWA YAMA』が終わると、ふと頭をよぎった。 ――形容詞は何だろうか?
 日本が世界に誇るトランペッター、日野皓正氏(以下、ヒノテルさん)。彼はまぎれもなくレジェンドである。しかし、近年「レジェンド」という言葉がスポーツ界をはじめあらゆる場面で使われ、その響きがやや軽く感じられる。私には「偉大な」という表現のほうがしっくりくる。
 そんなヒノテルさんのコンサートが逗子で聴けるとは驚きだった。しかもトランペット四重奏。会場は、青春時代に彼に憧れた人々や若い世代のファンで満席だった。
 2曲目以降も、トランペットの音が逗子文化プラザなぎさホールのステージから客席へと響き渡る。四重奏ならではの共鳴が生まれ、音が化学反応を起こしたかのようにキラキラと輝いて聴こえた。
 ヒノテルさんは昨年、腹筋を鍛えるために重いウエイトを持ち上げるトレーニングをし過ぎて体調を崩したが、見事に復活を遂げたという。それはきっと、世界水準の音をさらに高めるための鍛錬だったのだろう。
 彼らの四重奏は、洗練された音楽の魅力とともに、どこか古き良きアメリカの雰囲気を彷彿とさせる。何より、本公演を通じて感じたのは、作品が持つピースフルなメッセージだ。あの温かな皮膚感覚を受け取ったのは、私だけではないだろう。
 休憩時間を挟み、高橋佑成氏のピアノソロが場を盛り上げた。そして、優しく詩的な雰囲気のバラード曲へ。今回共演したトランペッター(原朋直氏、中村恵介氏、佐瀬悠輔氏)とヒノテルさんが、それぞれソロ演奏を披露する。演奏の前には、各トランペッターがヒノテルさんを称賛するコメントを述べた。
 ヒノテルさんによると、日本とアメリカでは「ゴマをする」所作が異なるそうだ。アメリカではバイオリンを弾くような動作で表すという。彼はその話をしながら、自らバイオリンを弾く仕草を見せ、場内の笑いを誘った。
 ヒノテルさんが奏でたバラード曲『Over The Rainbow』は、まるでこれからの日本に美しい虹がかかることを願うかのようだった。
 ラストは、ヒノテルさんが、確か19歳の時に作曲したと聞いたことがある名曲『Alone Alone and Alone』。アンコール前には、「今日は紹介できなかったけれど、素敵なトランペッターはたくさんいます。」と、後進への気遣いを見せる言葉を残した。そして、アンコール曲『Straight No Chaser』を演奏し、舞台袖へと去って行った。
 ――ジャズトランペットの演奏(人生)には、余計なものは要らない。
 そんなメッセージが込められているかのような選曲だった。

ボランティアライター 海原弘之

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