ホール主催の催しの感想や雰囲気をみなさまに発信する活動をしている“情報発信ボランティアライター”の方によるレポートをお届けいたします。
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吉田兄弟のコンサートがあると聞き、寒さ厳しい晩冬の中、なぎさホールに向かった。吉田兄弟の名前は知っていたが、コンサートは初めて。以前、NHKだったと記憶するが、ニューヨーク三味線三昧というアーカイブ映像を見たぐらいだった。三味線のコンサート自体は、6、7年前に青森へ旅行した際に宿泊先のホテルで鑑賞したミニコンサートだけで、三味線の本格的なコンサートは初めてだった。
寒さのぶり返しで外は寒かったが、なぎさホール内は熱気に包まれていた。ホールに入って席に着くと、何と驚くことに空席は全く見当たらない。凄い人気だ。
観客は年配の方が多い。吉田兄弟のご両親と同世代と見られる方もいて、さながら息子達の活躍を見守っているかの様子だった。
最初の曲は“decollage ~鳥の歌~”。洋風でタンゴ調だ。それもそのはず、吉田兄弟は世界を股に掛けて活躍しており、洋風な曲もこなれている。どうやってこんな曲を創造できるのだろうか。それにしても、三味線と掛け声だけでこれだけの表現できるのは凄いことだ。
私にとってこのコンサートのクライマックスは、“Harukeshi”と“いつしか”の二曲連奏の時だった。“Harukeshi”は、アップテンポで小気味よい。観客も心で踊っている様子。“いつしか”の独奏部分は、兄弟ともに熱量全開の演奏で観客も同期していた。それにしても凄い集中力だ。単なる演奏技術だけではない、魂の響きというのだろうか。
アンコールを含めても1時間半ほどのコンサートで短めといえど、あっという間に時が過ぎた。内容が濃くて三味線の楽しさを十分に堪能できた。もっともっと聴きたい。次の機会には、オーケストラとのコラボレーションコンサートも楽しみたいところだ。
コンサートの日の夜、ベッドに横になっても三味線の音色とリズムが耳についたままでなかなか眠れなかった。吉田兄弟の事をもっと早く知っていればよかったと思う。知るのが遅すぎて、随分と損してしまった気分になった。
これからはYouTubeとCDで楽しみながら、次のコンサートに参じる機会を待ちたい。どうか、逗子へは毎年お越しください!
ボランティアライター 福岡伸行
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文化プラザホールの一階ロビーは人、人、人。まさかこれは本日の?と思ったら、やはり、なぎさホールは満席、初めて最上段の一番後ろの席に座った。ポスターで見た吉田兄弟の「ファンキー」な外見と、客席で嬉しげにざわめく老若男女の姿のギャップ、これは楽しみだ!
ごく簡素な舞台に静かに登場した吉田兄弟。弟の健一氏が“津軽三味線”の紹介とその理解の深化に繋がる活動をしているというスペインにちなんだ一曲目はカタルーニャ地方の民謡「鳥の歌」のアレンジ。のっけから息をのんで引き込まれる。目の前に風に渦巻く雪が見える。北海道登別の出身だという彼ら、津軽三味線の音は、雪と風を知らないと出せないと感じる。その音がスペインの沃野(よくや)を吹く風の音になり、さらにアラブの砂漠を吹く風になる。フラメンコギターや、中東のウードの音と重なった。続く「AIYA」ではまさしく、津軽三味線の伝統の伎(わざ)が存分に発揮される。津軽三味線好きにはたまらない。
兄弟各々が自作の独奏を披露する頃には、それぞれの伎の特徴が見えてくる。弟の健一氏はこれが三味線?というような澄んだ高音を、ピアニッシモで放って見せる、彼のトレモロ(と言っていいのか?)はまさに超絶技巧、モダンで奇抜だ。一方、兄の良一郎氏の「烈光」は、もう、すさまじいとしか言いようのない演奏だ。大きな体を少し丸めるようにして全身の筋肉が柔らかく波打つように自由闊達にバチをさばき、その低い強烈な打音が微かにかすれて、たまらないファジーなぶれを起こす。そのしなやかさと伝統の伎の巧みが支えて三味線の音を揺らし、聴衆の体全体を共鳴させる。魂を鷲づかみにする音にくらくらする。実にジャジーで、同時に伝統の真の匠の伎、まさに津軽三味線の音これにあり!という感じだ。
二人が一緒になった「津軽じょんがら節」は、ソロパートで各自が独自性を存分に発揮。そして合奏では良一郎氏の低音と超絶名人の伎が、がっしりと健一氏の自由でおしゃれで時々「やんちゃ」な演奏を支えながら展開され、絶妙としか言いようのない掛け合いを聴かせてくれた。
道産子らしいスケールの大きい自由さとおおらかさ、伝統の型をしっかりと身に着けた匠の自在な音遊びの世界を堪能した。その日の天候や客の服装まで音に影響するという三味線を、文化プラザホールの素晴らしい音響で楽しめた。いつもながら素晴らしい演者を選んでくれてありがとうございました!
ボランティアライター 不破理江
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