当ホールの情報発信ボランティアによるレポートです。イベントの雰囲気や感想を発信する活動をしています。
本多遥氏と共にトランペットの歴史を辿っていく今回のプログラム、前半はバロックから。楽器の進化と共に音階が増え、メロディーも滑らかなものとなっていく。この面白み、本多氏の解説なしに気付くことはなかったであろう。
休憩後の後半は、ピストンバルブが付き現代のトランペットの型になってからの曲。持ち味を生かしたより華やかな曲が続いていく。
トランペットアンサンブルとの共演による≪モラレス:X1≫では空間を突き抜ける独特の高音や各パートが細かな音を追いかける様に繋ぐことで、胸が高鳴る程の疾走感を味わう。大宇宙をシャトルが飛び交う絵が見えてくるようであった。
何よりの驚きは、≪ラプソディ·イン·ブルー≫。この奔放でウィットな曲をトランペットとピアノのみという編成で聞く日が来るとは思いもしなかった。通常であれば、ピアノとオーケストラにより、様々な音色と奏法で表現されるのだが、本多氏の巧みな技術と表現力、更に息の合ったピアノが加わりその世界観が見事に伝えられていた。
古典から現代、そして新しい試み、輝かしいファンファーレ、沸き上がる「ブラボー」の歓喜。落ち着いた年齢層の方々やステージへの憧れを抱いているであろう若者達でほぼ満員の会場に割れんばかりの拍手が起こる。感動はもちろんのこと、観客を興奮へと誘った若き演奏家へのエールも含んでいたに違いない。再び演奏が聞けることを望んで。
ボランティアライター 佐々木安弥
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残暑厳しい晩夏、日曜日の昼下がり、若手演奏家シリーズの第5回演奏会が逗子文化プラザ さざなみホールで開かれた。空席は少なく観客も老若男女のバランスもよくて、幅広い層から人気のあるのがわかる。副題にあるとおり、17,8世紀のバロック音楽から現代音楽まで、トランペットという楽器をとおしてその歴史を辿る試みである。
トランペット演奏は、本多遥氏に洗足学園音楽大学の4人の後輩たちを加えたメンバーだ。ピアノ伴奏は、本多氏と湘南ユース時代の同期であった志村真梨子氏が務めた。
最初の曲目は、バロック音楽を代表する作曲家の一人、ヘンデルの≪トランペットのための組曲≫。唇のみで音階を変える旧式であったころの代表作と言えそうだ。本多氏の演奏力と息の合ったピアノ伴奏で、快調な滑り出し。
次は、やはりバロック音楽の代表格であるヴィヴァルディの曲で、≪二本のトランペットのための協奏曲≫。この時代の王様は、自分の宮廷に何人のトランペット吹きを抱えているかが、ある種ステータスシンボルだったとか。それは、トランペットが花形楽器であったことを物語っている。
ドイツ初期バロックの作曲家でオルガン奏者でもあったシャイト作曲の≪カンツォン・コルネット≫は、今日の題目の中では最も古い曲だ。この曲は同じモチーフを、タイミングをずらして掛け合うので、聴いているほうはテンポよく楽しく聴けるが、演奏者は一人一人がきちんと吹ける必要があり大変だろう。学生4人だけの演奏だったが、よく音が出せており、なかなかの力演だった。先輩の期待に応えていたと思う。
前半の最後は、本多氏のトランペットとピアノ伴奏による古典派ハイドンの≪トランペット協奏曲≫。この時代から、トランペットもピストン付きになり、半音階も使われるようになったそうだ。ピアノも切れ味がある演奏で、聴きごたえがあった。
後半、アメリカの作曲家モラレスのトランペット五重奏は、今日の題目の中では最も新しい曲だ。≪X1≫は音速を超えた航空機を意味する。その名のとおり、躍動感があり且つ不協和音がちりばめられているところがいかにも現代音楽らしい。
終盤では、本多氏の独奏によるガーシュインの有名曲≪ラプソディ・イン・ブルー≫が秀逸!
アンコール2曲目は、ホーナー作曲≪アメリカ物語から“Somewhere out there”≫。
なんと哀愁があり心のこもった優しい音色か。この曲を聴けただけでも今日の演奏会に来た価値があったと思う。演奏者全員にブラボー!!
ボランティアライター 福岡伸行