★イベントレポート「平田耕治 TANGO CONCERT」2017年9月24日(日)開催

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当ホールの情報発信ボランティアによるレポートです。イベントの雰囲気や感想を発信する活動をしています。

 タンゴというものを私は聞かずに生きてきました。なんとなく「ダンスの一種?」ぐらいのお粗末な知識量です。今回、地元でタンゴコンサートがあると聞いて、聞いた事ないから行きたい!と思いました。でもうちには、1歳半になる幼児が・・・。あきらめていたら、なんと託児サービスがあると言うではないですか!1500円かかりますが、平田さんのプレトーク(公演前のおしゃべりの時間)から預けられたので、今回は最長4時間も預かってもらえて1500円は助かる!と思いました。おもちゃでいっぱいの部屋に案内されると、保育士さんが二人、うちの子が貸し切り状態でした。託児のサービスがある事を知っていたら、もっとたくさんの若いパパ、ママが来たかっただろうなあ。

 さてさて、平田耕治さんはバンドネオン界の旗手で本場アルゼンチンでも高く評価されていると、パンフレットに書いてあるのを読んだときは、バンドネオンとはなんぞや?と頭の中がクエスチョンマークでした。登場した時に、平田さんが片足に乗せた小さなアコーディオンのような楽器、あれだと見当をつけましたが、おしゃべりも無く、すぐに始まった演奏に、あっという間に大人の世界に引き込まれてしまいました。黒いカーテンに浮かび上がるパープル&レッドの照明、ブラックスーツの男性二人とブラックドレスの美女一人。夜の香水が匂い立つようなムードです。

 そして、1部の後半からはこちらの三人に、シャイな笑顔が印象的なアルゼンチン人のアリエルさんが加わりました。アリエルさんの演奏は、とっても優しくてゆったりとしていて、また違った大人の印象に変わりました。先ほどまで銀座にいた大人が、今度は新宿御苑の緑の中を散歩しているようなイメージが浮かびました。曲はオリジナル曲≪セプティエンブレ≫。「9月」と言うタイトル。アルゼンチンは南半球にあるので、季節が日本と逆で、9月はまだ肌寒い時期らしいです。そんなMCからも異文化の刺激を受けました。

 優しかったり、茶目っ気があったりするけれど終始大人っぽいタンゴの演奏に夢中になって、あっという間の2時間でした。 

 終わって、子どもをお迎えに託児ルームに行くと、ご機嫌でおもちゃで遊んでいました。これならまた来られますね!

ボランティアライター 赤羽早弓

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 ピアノが奏でる心地よい旋律に、ヴァイオリンが奏でる繊細で研ぎ澄まされた音色が重なる。

 そこに、バンドネオンが光となり影となり、しかし確かな存在感を持って曲に感情を吹き込んでいく。それは優雅に、時に激しく狂おしく、そして時に哀しい。

 様々な感情が心地よい「波」のように寄せては返していく。それがタンゴの世界。

 どちらかというと年配の方で満員となったこのコンサート。
日常の生活や、ストレスなんて全て忘れて、タンゴという波に身を任せているうちに、まるで自分が社交ダンス場で優雅に踊っているような錯覚に陥ることができる。あるいは過ぎていった日々に静かに、そして熱く思いを馳せることができる。

 来場された方たちが、きっと期待されていたであろう世界が、数々のタンゴの名曲にのせて期待通りに展開された。

 このコンサートをさらに印象深いものにしてくれたのは、2つの特色によるものだったと思う。

 一つ目は、懐かしい映画音楽から、ジブリのアニメ映画まで、たくさんの映画音楽がバンドネオン・ピアノ・ヴァイオリン、曲によってはギターも入り演奏されたということ。

 私個人的には、優雅でもの哀しい夕暮れの街を思わせるメロディーと、その中にも力強さを感じさせてくれた≪サンティアゴに雨が降る≫が特に印象深く、私の脳裏には今もあの音色が色あせることなく残っている。

 もう一つの特色は、演奏ではバンドネオンを情熱的に自由自在に操る平田耕治さんの、曲の合間のおだやかな語り口のMCだったと思う。

 それはまるで静かな夜のFM放送の様で、会場にいる我々が今ひたっているタンゴの世界感を広げてくれた。

 ただしそこにはFM放送との根本的な違いがあった。それはその時そこで我々が聞いていた音楽は、我々がいたその場所で、我々の目の前で、生で演奏されていたということだ。

 この耳に届くその音は、単なる「空気の振動」ではなく、人を感動させるエネルギーが満ちている。私にはそう思えた。

 そのエネルギーは平田さんをはじめとする演奏者の方たちと、我々観客が場所と時と感情を共有しているからこそおきる、「共感」によるものだったのだと思う。

 人と人を共感でつなぐ、楽器の音色、そしてタンゴのメロディーに魅了させられた、素晴らしい時間だった。

ボランティアライター 浅野修弘

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 タンゴという言葉の響きからは、スペイン発祥のフラメンコのような情熱的な音楽とダンスを連想したのだが、実際に調べてみるとそのルーツはどうもスペインにあるらしい。

  そこから長い年月を重ね、同じラテン圏である南米に移り渡ったのち、アルゼンチンの地で醸成を経て、バンドネオンの艶やかな音色をベースとした、より優美なスタイルに変遷を遂げたようである。

  そのタンゴの演奏が、バンドネオン奏者の平田耕治氏の率いるグループにより催されるということで、その歴史あるラテン音楽のルーツを探るべく、去る9月24日に逗子文化プラザホールへ足を運んだ。

  今回の公演は大きく2部構成になっており、前半が伝統的なタンゴの名曲で編成され、後半は映画音楽によりアレンジされた。また、演奏はメインキャストのバンドネオンに加えて、ピアノにヴァイオリン、そしてギターという構成により、タンゴと名画のさまざまな曲が繰り広げられた。

  そのタンゴのメロディーであるが、艶やかなバンドネオンの音色をベースに、ときに伸びやかに、ときにリズミカルに、多彩なテンポが組み合わされ、官能と情熱の入り混じった、魂が揺さぶられるかのような迫力を感じるものであった。

  その艶やかなバンドネオンに加えて、他の奏者とのコンビネーションが絶妙であり、メロディーの背後に見える風景や人間模様といったストーリーが思い浮かんでくる表現力は圧巻であった。

  特に後半の映画音楽は多くの方が一度は聞き覚えのあるであろう馴染み深い曲で編成され、その中でも≪ハウルの動く城≫の人生のメリーゴーランドについては、その会場の空気感から多くの観客の心を奪ったように感じた。

  そして、私が最も楽しみにしていたイタリア映画のふたつ、≪イル・ポスティーノ≫と≪ゴッドファーザー≫のテーマ音楽については、申し分なくバンドネオンの音色が引き立てられ、この映画のストーリーにある歓びと切なさがしっかりと表現されていたのが印象深い。

  演奏のあと、このタンゴについてよく調べてみると、フラメンコと同じようにジプシーに起源があり、特に切なさや悲恋さといった繊細で切なさの入り混じる感情とバンドネオンの音色がとてもマッチすることはても頷ける話であると感じた。

 ボランティアライター 樋口善信

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 開場と同時に前のほうから席が埋まり、なぎさホールはあっという間に満員の観客で埋め尽くされた。場内の熱気からもみんな演奏を心待ちにしているのがわかる。逗子文化プラザで年に一度、6年目を迎えた公演。聞けば最初のうちはなかなか席が埋まらなかったり、小人数のさざさみホールが会場だった年もあるとのこと。たとえ時間がかかっても、いいものはちゃんと受け入れられるということなのだろう。

 そもそもコンサートの主役である“バンドネオン”自体、万人が知るポピュラーな楽器とはいいがたい。タンゴの伴奏で使うと聞いて、ああそういえば……と思い当たるぐらい。アコーディオンに似た蛇腹式だが鍵盤でなくボタンを押して演奏する、ボタンの配置が音階の順に並んでいない、蛇腹を押したり引いたりすることで音程も変わってしまう……とステージの途中で説明はあったが、聞けば聞くほど謎。しかしその音色には一瞬で魅了されてしまった。

 弦楽器のように鳴らすことも、木管のように歌わせることもできる。時にはパイプオルガンのような荘厳な響きも思いのまま。とにかく表現の幅がとても広いのだ。

 演奏者・平田耕治は、あたかも自分の体の一部のようにこの楽器を操る。奏者の感情がそのまま響いてくるような音色。音の区切りでさえ、まるで深いブレスのように聞こえるのだ。この個性が最も生きるのが、やはりタンゴ。ときに軽やかに、ときに激しく、止まったと思えばまた走り出す。情熱も優しさも哀愁もすべてが力強い演奏は心をつかんで離さず、一曲ごとに一つのドラマを体感したかのような密度の濃い時間を味わわせてくれた。

 その平田氏と歩調を合わせるかのようなヴァイオリンとピアノの情感豊かな演奏、さらに彼の音楽を包み込むようなアルゼンチンからのゲストギタリスト、アリエル・ロペス・サルディーバル氏の温かいサウンドも印象深い。

 今回はタンゴばかりでなく、2部構成の1部を映画音楽で統一するなど幅広いプログラムで、バンドネオンの音色の特徴や可能性がくっきり印象づけられた。だがいっぽうで、終わってみれば、もっとタンゴの世界に浸りたかったような気もする。これも聴きたい、あれも聴きたいと、観客を欲張りにしてしまう演奏—

 すでに次回が待ち切れないのである。

ボランティアライター 寺山ルリ子

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 彼は静かにステージに現れ、そっと椅子に座り、その宝箱をとても丁寧に両腿に置いた。カウント後、箱をゆっくりと左右に広げ始める。中央にある蛇腹が、広がりと縮みを繰り返すと、異国ブエノスアイレスを連想させるタンゴのメロディが流れる。バンドネオン奏者 平田耕治のタンゴコンサートが始まった。ギタリストのアリエル・ロペス・サンディーバルもゲストとして登場する。

 バンドネオン。アコーディオンと似ているが、鍵盤はボタン型をしており、蛇腹を挟んで両側にある。19世紀にアルゼンチンに入ってきてアルゼンチンタンゴの主楽器となった。だが、第二次世界大戦で製造技術をすべて失い、当時の音色箱を再現する事はできない。現在では5万個程残っている古いものを演奏者は修理しながら大切に使っているそうだ。

 13歳でバンドネオンと出会ってから共に人生を歩み続けている平田耕治もそのうちの一人であろう。情熱やせつなさを音に変換したようなバンドネオンを平田氏はどう奏でるのだろうか?

 前半はタンゴを9曲。楽譜上の音符は黒1色だが、平田氏の手にかかると途端に音は色を放つ。情熱を連想する赤、どこまでも透明で深い青など彼の手によって色味も深みも無限に変化し広がってゆく。バンドネオンの蛇腹が広がり、そっとたたまれると情熱を含んだ空気が押し出され、そこに繊細なヴァイオリンの音色と軽やかなピアノの音が溶け込み、一瞬にしてタンゴの世界に連れていかれる。さらにはアリエルの透明感あるギターの音色が重なると、深い湖に一滴ずつ水滴が落ちてゆくような別世界が繰り広げられていった。

 後半は映画の名曲をたっぷりと聴かせてくれる。ストーリーが音で表現され映画のワンシーンが蘇る。洋画は勿論だが、21世紀の日本で生まれたジブリの「ハウルの動く城」≪人生のメリーゴーランド≫がバンドネオンでどう表現されるのかが興味深い。バンドネオンの音色はゆっくりと会場の空気に沁み渡り、しっとりとした大人ジブリワールドが生まれていく。9つのストーリーが繰り広げられ、最後は「ゴットファーザー」≪愛のテーマ≫。あのメロディが始まると、演奏者たちの奏でる美しい姿を目に焼きつつ曲に浸りたい思いと、目を閉じ楽器の織り重なり合う響きに集中したい気持ちとが激しく葛藤する。どうかこの時間が永遠に続きますように-。そう願ったのはきっと自分だけではなかったと、会場の割れんばかりの拍手からそう感じた。

ボランティアライター 山上真琴