当ホールの情報発信ボランティアによるレポートです。イベントの雰囲気や感想を発信する活動をしています。
2月の肌寒い日、逗子文化プラザなぎさホールは満席だ。ジャニーズなどのアイドルグループが公演する前の興奮を思わせる熱気が客席を覆っていた。
前日、落語ファンの大学同級生は「僕はビジネスプレゼンを上手にできるようにするために、お手本として落語を聴いている」と言っていた。たしかに世の中は、阿川佐和子さんのベストセラー「聞く力」とともにコピーライター佐々木圭一氏の著作「伝え方が9割」などがヒットしているように、コミュニケーションスキルに注目が集まっている。 わたしは日常を忘れ、何も考えないで落語を楽しみたいと思い席に着いた。
寄席と違って大きなホールだが、出囃子が聞こえただけで、客席からが笑い声が聞こえてくる。
舞台の幕が開き、若手の三遊亭わん丈が高座にあらわれた。たぶん彼の鉄板ネタだろうか。「わん丈」という名前をつけるのに際して、師匠が犬を飼っていたから・・・で。プレゼンで俗に言う‘つかみ’で客席を落語ワールドに誘ってくれる。続いて、美形で少しニヒルな感じの落語家とは思えない(失礼!)春風亭一之輔が登場。上半身を激しく動かし演目「百川」を披露する。美形な一之輔と落語のミスマッチもおもしろい。
休憩をはさんで、小柄な女性パフォーマー「のだゆき」が、ピアニカを持って現れた。小学生が使う楽器で何をするのだろうかと思っていたら、町にいろいろあるコンビニのオートドアが開閉するときの音をコンビニチェーン別に弾き分けたり、自分の頭でピアニカの鍵盤を操り演奏する。語りもうまい!彼女一人だけで公演ができるのではないかと感じるぐらいに客席を盛りあがらせる。
最後に笑点でおなじみの人気落語家、三遊亭円楽が紫の着物で堂々と高座に上がると、客席の熱気はヒートアップ。定番の「歌丸師匠ネタ」で始まり、演目「読書の時間」ではインテリ芸能人らしく、国語の知識をおもしろく聴かせてくれた。
誰に聞いたか忘れたが、円楽はIQ(知能指数)が本当に高いそうだ。話の絶妙の間や落とし方など。さすがにいいプレゼンターいや、落語家・円楽だと思わせてくれた。しまった!落語会の最中、つい「よく伝わるプレゼンとはどのようなものだろうか」などと、余計なことを考えてしまい、せっかくの公演、120%楽しめるチャンスを100%にしてしまった。次の機会は絶対に無心で楽しもう。ホールから外に出ると熱気を帯びた身体に冷たい風が気持ちいい。
ボランティアライター 海原弘之
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先日恒例の逗子落語会が開かれた折、僕も聴きに行ってきました。外の寒気とは大違いの熱気に包まれた公演の様子を紹介します。今回の演者は4名、春風亭一之輔さんと三遊亭円楽さんが各部のトリ、三遊亭わん丈さんとのだゆきさんが前座をつとめます。
第一部はわん丈さんからスタートです。わん丈さん、逗子にもすっかりなじんで持ち味のスピ―ド感も前回公演より増していますね。今回の演目は「寄合酒」です。お金がない者同士が宴会を開こうとしておバカなことをしでかし続けます。
続いて第一部のトリ、一之輔さんが登場です。今回の演目は「百川」、何弁を話しているかわからない奉公人の百兵衛さんが珍騒動を引き起こします。百兵衛さんを演じるにはもの凄く稽古を積み重ねている筈なのに、一之輔さんさらりと演じている印象です。そこが落語の芸の凄味なんだと、すぐに気づかされます。ちょっと真似しようにも生半可に同じことはできませんでした。
第二部は、紅一点のだゆきさんの音楽パフォーマンスで開始です。会場内の雰囲気を一気に「ホワーン」とさせる可愛らしい女性だなとみていたらボケを連発しまくります。一方音楽パフォーマンスは見事、音楽でも笑いでも拍手を貰って円楽さんに繋ぎます。のださん、2018年最初の掘り出し物になりそうです。
円楽さんは登場するなり、歌丸さんの話題で会場を笑わせ、今回の演目「読書の時間」に入っていきます。後で調べてみたら、桂文枝さん作の創作落語との事。お父さんが隠し持っていたエロ小説を、高校生の息子が間違えて持って行き、読書の授業が始まる場面がクライマックス!大ボケかます同級生達の最後に息子がお父さんの「竜馬が行く」を朗読するも何かが違う。想像通りのオチとなりますが、公演は大笑いで終了となります。
こうやって、文章に掘り起ししてみても楽しい時間でした。最近は「アカモク」を逗子の名産品として売出す動きがありますが、この「逗子落語会」も十分名産品になりえます。今回来られた方もそうでない方も次回会場でお目にかかりましょう。
ボランティアライター 河島三二
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末廣亭まで行かずとも本格的な寄席気分が楽しめる逗子落語会、本日も満員御礼なり。
何やら鋭い横笛の恐ろし気な音楽が響き出し、これ、落語だよね?と不安になった頃、明るいお囃子に切り替わって、三遊亭わん丈登場。幅広い世代に落語の楽しさを伝えるために、逗子に足しげく来てくれている。高齢者の多い観客に思いやりのあるマクラに続いて、本日の話は『寄合酒』。野原で拾ってきたものが、『味噌』なのか『糞』なのかを見極めるために味見をする下りでは、客席は思わずうへー、と顔をしかめる。味噌でよかった!
続いて春風亭一之輔。ちょっと斜に構え、気だるい感じでぼそぼそとマクラを語る声が、『百川』が始まった途端一変する。田舎訛りの強い奉公人百兵衛が、料亭のお客、魚河岸の荒くれ者たちと繰り広げるとんちんかんなやり取りが、一之輔の流れるような滑舌で生き生きと立ち上がって来る。大げさな身振り一つしないのに言葉の音の面白さだけで聴衆をぐっとつかんで放さない。会場のあちこちで子どもたちの嬉しそうな笑い声が巻き起こる。こんなに子どもがいたのかと初めて気づいた。
様々な賞を総なめしている師匠の話芸の確かさに舌を巻く一席だった。
仲入り後はのだゆきのピアニカとリコーダーによる可笑しくも実に愛らしい芸。あの楽器でこんなに多彩な音が出せるのかと感心する。最後にはアコーディオンさながらのシャンソンを聞かせてくれて大満足。
そしてついに真打円楽師匠。開口一番「歌丸は生きてます」。客席も親戚のおじさんのことのように喜んで、身を乗り出して聞いている。歌丸さんと落語への愛情をたっぷり感じるマクラのあとは新作落語『読書の時間』。こちらは大人向けの内容だが、落ち着いた語り口と間合いの良さに、分からないなりに子どもたちもつい耳を傾けてしまったのではないだろうか。生で聞くとよく分かる声の良さと品の良さ、そして時折さらりと政治風刺を盛り込んで、クスッと笑わせる知的な落語は、聞いていて実に心地がいい。もともと道化は王様の権力を笑い飛ばすところから生まれたもの。日本でもそういう本物のお笑いをもっともっと見てみたい。
本日は演者それぞれ実に個性豊か、大いに笑って、とてもとてもお得な一夜でした!
ボランティアライター 不破理江