当ホールの情報発信ボランティアによるレポートです。イベントの雰囲気や感想を発信する活動をしています。
3月の晴れた日の午後、4人の若き女性音楽家―ソプラノ杉田彩織、メゾソプラノ吉田安梨沙、ヴァイオリン中村風子、ピアノ松岡すみれ―が逗子に集まった。
14時。それぞれ色鮮やかなドレスに身を包んだ4人が登場。「春に寄せて」と題した前半がスタート。
タイトルにふさわしく、春の光が射し込んでくるような雰囲気。優しく柔らかな曲を品の良い歌と演奏で聞かせてくれた。《ふるさとの四季》 “春”、オペラ《ラクメ》より“花の二重唱”では、ソプラノとメゾソプラノの声質がとても合っていて、調和のとれた2人の歌声が心地好く耳に入ってきた。《春の夜》S.568のピアノソロは、和音が乱れず、音の強弱のつけ方も巧み。テクニックだけでなく、作品のロマンチックな雰囲気を引き出す表現力も見事だった。《くるみ割り人形》より“花のワルツ”は、今回はヴァイオリンソロ(ピアノ伴奏臼木麻祐子)で演奏されたが、華があって優雅で、いつ聞いても素敵な曲。
後半は「クラシックの名曲」。聞きごたえのある歌と演奏が次々と披露された。オペラ《ホフマン物語》より“舟歌”。ソプラノの伸びのある高音とメゾソプラノの魅力ある低音が響き合い、澄んだピアノの音が支える。ゆったりとした曲調に全てがマッチした素晴らしいパフォーマンスだった。ヴァイオリンがスピーディーで華やかな《チャルダッシュ》で楽しませたあと、ピアノが《ポロネーズ第7番》“幻想”変イ長調作品61で観客を圧倒。高音にも低音にも深い力があり、テクニックも確か。音に乱れがなく、集中力を感じさせる見事な演奏だった。オペラ《サムソンとデリラ》より“あなたの声に私の心は開く”でのメゾソプラノ。豊かな声量と表現力で、甘く美しい旋律を情感たっぷりに歌い上げた。オペラ《マノン》より“私が女王のように路を歩くと”。ソプラノの杉田氏は役になりきる演技力があって引き付けられる。それは他のオペラの曲も同様であった。最後はオペラ《椿姫》より“乾杯の歌”で明るく終了。
アンコール曲は《花は咲く》。3月になると思い出すあの悲劇に寄り添うように、4人の思いがこもったあたたかい歌と演奏に心を打たれた。
彼女たちは、これから更なる研鑽を積んで飛躍していくことだろう。またいつか、逗子文化プラザホールに戻ってきてほしい。そのときは、より大きな音楽家になって。
ボランティアライター 青栁有美
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桜開花直前の季節のホールを包む陽射しは、とても明るく穏やかでした。会場入り口には、笑顔の人々。
この日のテーマは、声の芸術です。
舞台中央にグランドピアノ、亜麻色のヴァイオリンが奏者共々スタンバイをして、隣に素敵なドレスに身を包む歌姫二人が立つ。
ソプラノとメゾソプラノ両者の歌声に改めて「今日の季節・春」を感じました。日本古来の唄に始まり休憩後の2部が終わる辺りの聴衆は、美しい声楽の世界、声というより「歌姫の息」の中に溺れる様。小鳥がさえずり、大きなため息のように唄う「恋の詩」もありました。後半は、西洋の古典的声楽の楽曲数々の紹介。慣れ親しんだ名曲から初体験の楽曲まで「情熱」溢れる歌姫の息・呼吸に伴う声にとても新しい感動を覚えました。一聴衆者の私は、器楽も良いけれど音楽の原点は、声楽なのかな、と想い慶び楽しんでいました。
アンコールで披露された≪花は咲く≫を聴いたときでした。「圧巻」「圧倒」「感動」する前に激しく涙腺の刺激を感じてしまいました。それは、私だけでは、ありませんでした。詩をサウンドに乗せて深い意味を教わりました。とても素敵な音楽会でした。
声の芸術、声楽の魅力に加えて出演者衣装など全ての舞台演出の効果に逗子文化プラザホールの“完成度の極み”を私は感じていました。公演終了後のホワイエ(ホールのロビー・休憩所)の趣は、満面の笑みに満ちて爽やかです。来場者皆が、既知の人のように語り合っています。
名残惜しみホール外へ出ると春先の夕べの外気は、まだ冷たさが残っている、そのような季節でのホール主催の心温まる公演でした。年度末であることを想い浮かべながらも新年度への期待・夢が持てる。そんな慶びの笑みを浮かべながら帰路に着きました。
ボランティアライター 長坂祐司